フェイルセイフについて

   2014年2月に日本鉄道電気技術協会鉄道技術フォーラムにおいて、「フェイルセイフについて考える」と題して講演を行いました。250名の方に聴講いただきました。以下はその要旨です。なお電気技術雑誌「OHM」に2013年9月号から7回連載で「フェイルセーフ考」という記事を書かせていただいております。奥村幾正さんと連名での執筆ですが、こちらもご覧いただければ大変光栄に思います。 


「フェイルセイフについて考える」

フェイルセイフとは、故障してもシステムを安全状態に移行させる設計技術です。考え方自体は鉄道信号誕生の初期からありますが、語源は米空軍由来で高々50年前のことです。

コンピュータやノイズによる誤動作はもちろん、近年はソフトウェアのミスもカバーするよう定義されるなど、技術の進歩にしたがってフェイルセイフの概念も進化しています。 鉄道の世界だけでなく、航空機、自動車、石油プラントなどでもフェイルセイフという用語は使われていますが、中身は厳密なフェイルセイフとは異なる場合もあります。そのせいで鉄道以外ではあまり考えていないみたいな話を聞くことがありますが、それは間違いで、学ぶことも沢山あるはずです。

フェイルセイフ技術の理論的基礎は、誤りの非対称性にあります。電位、重力等のポテンシャルの利用その他の手段を巧みに利用することにより、故障時に安全側に導きます。これにより危険側(列車を進める側)に誤る確率が、安全側(列車を止める側)よりも3桁ほど小さくできます。

高信頼性とどこが違うのかという疑問が出されることがありますが、信頼性を通常のレベルよりも3桁も高める設計技法というのは容易ではなく、ここにフェイルセイフの真骨頂があると思います。

アメリカの統計によると、信号保安装置故障のうちフェイルセイフでない故障は全体の0.32%で、日本国鉄の0.14%と、オーダーとしては一致しています。ただしデータがやや古く、国鉄の統計は踏切保安装置を除外していますが、近年も大きな変化はないようです。

国際標準でも、最も安全性の高い技術としてフェイルセイフが位置づけられ、これはSIL4として分類されています。10−9/時間の確率でしか起こらない故障で、従来からのフェイルセイフにならなかった故障率の数字に合わせてあるようです。フェイルセイフのはずなのにそうならない故障が、統計上の数字や国際標準に厳として存在していることは、知っておかなければなりません。絶対安全なものは世の中には存在しないのです。

鉄道の安全もフェイルセイフだけで成り立っているわけではありません。フェイルソフト、フールプルーフ、多重化などの関連技術がフェイルセイフの周囲にあり、これらの総合化で安全性を高めているのです。ただしライフサイクルにわたりその効果を保持していくのは、並大抵なことではありません。だからこそフェイルセイフ設計時の考え方に常に立ち返り、それを生かし続けるよう、保守や改修技術を含めて伝承していかなければなりません。そうすれば自信が持てる安全性の数値を実績として示せるはずだし、更なる向上もできるはずです。

フェイルセイフは決して過去の技術ではありません。これを育て発展させ、他の技術分野にまでその効用を広げるべきです。そうしてこそ、鉄道が誇る、現代に不可欠な安全技術だと、胸を張って言えるのではないでしょうか。

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