スペインの列車脱線事故について

   調べて判明したことを書きました。尼崎事故との類似性に驚かされます。
1.事故の概況 
RENFEのクラス730列車が2013年7月24日午後3時前、停車予定のサンジャゴ駅まで4キロメートルの曲線区間を走行中に脱線。8両列車には218人の乗客プラス列車乗務員が乗車していたが79人が死亡した。
2.事故原因
 調査中であるが、80km/hの曲線速度制限のところを約153km/hで走行した速度超過(ヒューマンエラー)と見られているが、信号システムの移行途中の欠陥も指摘されている。
3.乗務員
 運転士は52歳、30年のベテランで一人乗務。車掌(検札係)が別車両にいた。運転士は事故後に逮捕、保釈中。
4.線路
 事故が起こったセクションは、2011年12月に開設したOurense-Santiago間の 87.5キロメートル高速鉄道路線の最終部分で、300km/hの最高速度に設計されていたが、最終セクション区間は80km/hの規制であった。広軌、3kVのDC電化区間で、2020年までに終了する予定のOurenseからMedina del Campo路線の完了までは、標準軌HSRネットワークの他の部分から取り残された箇所。
脱線したS字カーブは高速線と在来線の一時的接続線として意図されており、(今は計画変更されているが)高速線が北に延びれば撤去されるはずだった区間である。
5.車両
 クラス730は、タルゴとボンバルディエ社により2009〜2011年に15編成製造、最高220km/hの軌間可変台車。25kVの交流と3kVの直流、さらに非電化路線を運行可能とする電気・ディーゼルのデュアルモード。
6.事故時の通話について
運転士は事故の前に電話をしてから3度の警報を受けていた。同じ列車に乗っていた車掌が運転士に電話し、駅ではどのホームに着くかを相談、運転士は調査中だと返答した。14時39分に電話をしたが、通話は2分以下で脱線の11秒前に終わっている。これまでの調査では運転士はRENFEの職員から指令電話を受けた。終着駅で採るべき手段で、運転士は計画ダイヤと類似の書類について尋ねているようだった。警報は14時39分、40分、41分に鳴り、ブレーキは14時40分に、最後の警報はカーブの250m前で4秒後に運転士はブレーキを扱った。
7.信号システム
 事故はETCSレベル1の区間で起きた。在来区間はスペイン独自のASFA信号システムが設備されている。サンジャゴは国内にいくつもあるシステム切替地点の一つ。ETCSは曲線速度制限でき、ASFAは速度制限ができないという、移行区間の問題である。脱線箇所はETCS運転可能であるが、クラス730車両についてはここではASFAで運転する。クラス121などではETCS運転しており、この理由は不明。高速区間最後の地上子は脱線現場手前4kmに設置されているが、それはETCS区間終了を運転士に知らせるだけの役割しかない。 ETCSとAFSAの移行区間の速度曲線は運転士には表示されず、当該箇所はマニュアル運転。当該列車は脱線の手前にあるAFSA遠方信号機を通過後150mのところで脱線。AFSAもより進んだ改良型AFSAも、自動列車停止装置(ATP)である。しかし後者が運転士にブレーキカーブを指示するのに対し、標準である前者は赤信号を冒したときだけ非常ブレーキがかかるだけ。どちらのAFSAが用いられていたかは不明。 サンジャゴ駅の場内が赤信号のときしか、脱線現場でブレーキがかかる可能性はなく、スペインのテレビによれば信号は青だった。新線のETCSは実はまだテスト中で、数ヶ月切り上げて使用開始の予定という。
8.対策等
 CIAF(鉄道事故調)によれば、曲線でも速度制限できるASFAに順次改良すべきと提言。政府は事故後に3つの地上子をサンチャゴ駅の1.9km手前地点から設置、160, 60,30 km/h の速度制限をかける対策を表明。ADIF(インフラ会社)は同様な場所について調査。RENFE では運転士、指令員、その他とのコミュニケーション、運転士の教育・評価を推進。Postor開発相は電話使用の厳格規制や鉄道ネットワーク全体の安全性の見直しを表明
注:ETCSレベル1:ETCSは無線で信号を受ける欧州標準信号システムだが、レベル1では軌道回路+地上子方式で、日本のATS-Pと大差ない性能。
ASFA:スペイン国鉄が1970年代に設置した従来型信号システム。日本のATS-Sと大差なく、最高速度制限や曲線制限は通常は不可。上記改良対策はETCS区間をサンジャゴ駅場内信号機まで延伸することと解釈。(2013年8月30日)
現地略図
←―――4km――|―150m―|―――4km―――|――ETCS区間――
場内s         現場   遠方s (通話?)  切替地上子

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